設計者なら必ず直面する「薄板へのねじ締結」問題。
その定番の解決策が バーリング加工(BRタップ) です
しかし、実際に設計に落とし込もうとすると、こんな疑問が出てきます。
皆さんもこういった経験、心当たりありませんか?
この記事では「これだけ覚えれば即判断できる」というコンセプトで、機械設計エンジニアとして10年以上の経験を踏まえ、バーリング加工の設計基準をまとめました。
さらに、書籍で学びたい方のために、”現場で実際に役立った”書籍もあわせて紹介します。
はじめに (本記事の目的・使い方)
板金のバーリング加工で設計者が最もつまずくのが
「この板厚でバーリングが必要か」がとっさに判断できない
という問題です。
それが故に、製作不可、品質不良、無駄なコスト増といった問題に繋がってしまうのです。
本記事では、設計判断を即判断できるを目指し、以下を準備しました。
これをブックマークすることで、実際の実務でその場で設計判断でき、板金設計の検図精度とスピードが大きく向上するはずです。ぜひ活用してみてください。
本記載内容は、JISやメーカサイト、経験則からまとめたものであり、
実際の設計現場と一致するものではありませんので、ご自身の判断で活用ください。
1. バーリング加工とは?まず基本から押さえる
バーリング加工とは、板金に開けた下穴の縁をパンチで押し広げ、穴の周囲に円筒状の立ち上がり(フランジ)を成形する塑性加工のことです。「穴フランジ加工」とも呼ばれます。
実務では以下の3工程がセットで「バーリングタップ」として発注されます。
| 工程 | 内容 | 加工方法 |
|---|---|---|
| ① 下穴加工 | 板金に穴を打ち抜く | タレットパンチ(NCT) |
| ② バーリング加工 | パンチで縁を押し上げてフランジを形成 | 専用バーリングパンチ |
| ③ タップ加工 | フランジ内径にねじ山を切る | 切削タップ |
この3工程をまとめて「バーリングタップ(BRタップ)」とも呼びます。
加工メーカーによっては、下穴〜タップ加工まで一括で加工できる設備もあり。
<参考リンク>
バーリング加工とは(Mitsuri Media)
バーリングタップの活用事例(株式会社平出精密)
2. なぜバーリングが必要?「3山ルール」の根拠
ねじの締結では、「ねじは3山以上かかるように設計する」というのが業界の基本ルールです。
なぜ3山かというと、
ねじ山への荷重分担の研究から、有効山数3山以上で締結強度が実用的に安定するためです。
計算で確認してみよう
計算式:有効山数 = 板厚 ÷ ピッチ → 3以上が目安
| ねじ | ピッチ | 3山に必要な板厚 | t1.0mmでの山数 | 判定 |
|---|---|---|---|---|
| M3(並目) | 0.5mm | 1.5mm以上 | 2.0山 | ❌ バーリング必要 |
| M4(並目) | 0.7mm | 2.1mm以上 | 1.4山 | ❌ バーリング必要 |
| M5(並目) | 0.8mm | 2.4mm以上 | 1.25山 | ❌ バーリング必要 |
つまり、板厚よりもねじ山のかかり代が不足する場合に、バーリングで「有効板厚」を増やすわけです。
<参考リンク>
バーリング加工におけるタップの選定(Misumi)
板金加工基礎講座・タップ編(AMADA)
3. 材質別のバーリング設計基準【SPCC・SUS304・A5052】
ここが実務で最も詰まるポイントです。
同じM4バーリングでも材質が違えば注意点が変わります。
<参考リンク>
材質別バーリングの注意点(ミスミ meviy)
アルミへの締結方法の比較(Mitsuri Media)
3-1. SPCC(冷間圧延鋼板)
| 特性 | 評価 | 内容 |
|---|---|---|
| 加工性 | ◎ | 最も加工しやすい。バーリング加工のスタンダード材 |
| バーリング適性 | ◎ | 延性が高く、割れにくい。フランジ成形が安定する |
| 使用板厚 | ○ | t1.0〜t3.0まで全域で安定加工可能 |
| 注意点 | ⚠ | 表面処理なしでは錆びる。三価クロメートメッキ等を必ず指定すること |
コスト・加工性ともに最優秀。「バーリングしたい → まずSPCCを検討」が実務の基本。
t1.6mm以下はほぼ全てのねじサイズでバーリングが必要になります。
3-2. SUS304(ステンレス鋼板)
| 特性 | 評価 | 内容 |
|---|---|---|
| 加工性 | △ | 加工硬化が起きやすく、SPCC比でバーリングが難しい |
| バーリング適性 | △ | 硬度が高くフランジ先端が割れやすい。金型負荷も大きい |
| 使用板厚 | △ | t1.0〜t2.0が実用域。t2.5以上は要メーカー確認 |
バーリング加工後、内径(フランジ径)が縮む傾向があります。
メーカー側はやや大径のチップを使用して補正しますが、フランジ高さの寸法指定は括弧寸法(参考値)にするのが鉄則です。
固定値で指示すると「加工不可」で戻ってくることがあります。
3-3. A5052(アルミニウム合金板)
| 特性 | 評価 | 内容 |
|---|---|---|
| 加工性 | ○ | 柔らかく成形性は良好。割れにくい |
| バーリング適性 | △ | フランジ強度が低い。タップのねじ山がつぶれやすい |
| 使用板厚 | ○ | t1.0〜t3.0(軽量化目的で多用される) |
頻繁に付け外しするカバーや点検口などへの適用は避けること。ねじ山がすぐつぶれてバカ穴になります。
代替策としてヘリサート(コイルインサート)またはカレイナット(圧入ナット)を検討をお勧めします。
4. 【実務の肝】板厚レンジ別バーリング判断早見表(t1.0〜t3.0)
検図でよく引っかかる「この板厚でバーリングは必要か?」を即答できる早見表です。
これを覚えるだけで検図の精度が大幅に上がります。
| 板厚 | M3(P=0.5) | M4(P=0.7) | M5(P=0.8) | M6(P=1.0) | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|
| t1.0 | 🔴 BR必須 | 🔴 BR必須 | 🔴 BR必須 | 🔴 BR必須 | 全サイズでBR必要 |
| t1.2 | 🔴 BR必須 | 🔴 BR必須 | 🔴 BR必須 | 🔴 BR必須 | M3は2.4山のみ |
| t1.5 | 🟡 BR推奨 | 🔴 BR必須 | 🔴 BR必須 | 🔴 BR必須 | M3は3山ちょうど。実務上BR推奨 |
| t1.6 | 🟢 直タップ可 | 🔴 BR必須 | 🔴 BR必須 | 🔴 BR必須 | M3直タップ可(3.2山) |
| t2.0 | 🟢 直タップ可 | 🟡 BR推奨 | 🔴 BR必須 | 🔴 BR必須 | M4は2.86山 → BR推奨 |
| t2.3 | 🟢 直タップ可 | 🟢 直タップ可 | 🟢 直タップ可 | 🟡 BR推奨 | M6は2.3山 → BR推奨 |
| t3.0 | 🟢 直タップ可 | 🟢 直タップ可 | 🟢 直タップ可 | 🟢 直タップ可 | 全サイズで直タップ可 |
🔴=BR必須 🟡=BR推奨(直タップはリスクあり) 🟢=直タップ可 | 有効山数 = 板厚 ÷ ピッチ
t1.5mmのM3タップは「理論上ちょうど3山」ですが、板厚公差でアンダーになることがあります。
設計意図よりも加工余裕を優先するのが実務の鉄則です。
<参考リンク>
バーリングができる板厚とタップサイズ(製缶板金加工.com)
5. バーリングタップ(BRタップ)寸法早見表
設計現場で使う寸法をまとめました。
メーカーによって多少の差がありますが、初期設計の目安として活用してください。
<参考リンク>
板金加工の基礎講座第12回 タップ加工(AMADA)
下穴って?ネジ穴を開ける手順を解説(TOOL Remake)
M3バーリングタップ(並目 P=0.5)
| 板厚 | 材質 | 下穴径 d | フランジ内径 φA | 高さ H(板厚含む) | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|
| t1.0 | SPCC | φ1.7 | φ2.57 | 約2.0mm | 切削タップ用 |
| t1.2 | SPCC | φ1.7 | φ2.57 | 約2.2mm | 切削タップ用 |
| t1.0 | SUS304 | φ1.75 | φ2.57 | 約2.0mm | 加工後縮みに注意 |
| t1.0 | A5052 | φ1.7 | φ2.75 | 約2.0mm | 転造タップ推奨 |
※上表は参考値です。実際の数値は発注先板金メーカーの標準値を必ず確認してください。高さHは板厚を含む値です。
M4バーリングタップ(並目 P=0.7)
| 板厚 | 材質 | 下穴径 d | フランジ内径 φA | 高さ H(板厚含む) | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|
| t1.0 | SPCC | φ2.2 | φ3.4 | 約2.5mm | 切削タップ用 |
| t1.2 | SPCC | φ2.2 | φ3.4 | 約2.6mm | 切削タップ用 |
| t1.6 | SPCC | φ2.5 | φ3.4 | 約3.0mm | 最も安定した加工域 |
| t1.0 | SUS304 | φ2.3 | φ3.4 | 約2.5mm | 加工後縮みに注意 |
| t1.6 | A5052 | φ2.2 | φ3.65 | 約3.0mm | 転造タップ推奨 |
※上表は参考値です。実際の数値は発注先板金メーカーの標準値を必ず確認してください。高さHは板厚を含む値です。
M5バーリングタップ(並目 P=0.8)
| 板厚 | 材質 | 下穴径 d | フランジ内径 φA | 高さ H(板厚含む) | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|
| t1.6 | SPCC | φ3.1 | φ4.3 | 約3.5mm | 切削タップ用 |
| t2.0 | SPCC | φ3.5 | φ4.3 | 約3.8mm | 最も安定した加工域 |
| t1.6 | SUS304 | φ3.2 | φ4.3 | 約3.5mm | 加工後縮みに注意 |
| t2.0 | A5052 | φ3.1 | φ4.6 | 約3.8mm | 転造タップ推奨 |
※上表は参考値です。実際の数値は発注先板金メーカーの標準値を必ず確認してください。高さHは板厚を含む値です。
6. 図面指示の書き方と検図チェックポイント
板金メーカーに伝わる図面指示の書き方は以下が基本です。
また実際に引っかかりやすいポイントを7項目もまとめました。
実務での推奨:2D図面に指示を明記し、3DデータはSTEP形式で納品する「3点セット(3D STEP + 2D DXF + 2D PDF)」が板金メーカーにとって最もわかりやすい。
3DモデルへのBR形状の反映は省略可。
6-1. 図面への記載方法(これで伝わる!)
| 指示例 | 解説 |
|---|---|
M4 BR タップ(表側突き出し) | 最もシンプルな指示。タップまで含む場合に有効 |
M4バーリング、タップ加工、並目(裏側突き出し) | タッピングビスとの混同を防げる。明確な指示 |
3×M4BRタップ(表側) | 同一仕様が3箇所の場合。引出線を1本に集約できる |
M4バーリング H=3.0(参考) | ⚠ 高さ指定は括弧(参考値)とすること。固定値はNG |
6-2. 【検図で詰まらない!】設計者必携チェックリスト
| No | チェック内容 | 判断基準 | NG時の対策 |
|---|---|---|---|
| 1 | 板厚とねじサイズで3山確保できているか | 板厚 ÷ ピッチ ≥ 3 | BRタップに変更 |
| 2 | BRの突き出し方向が相手部品と干渉しないか | 突き出し方向の指定が図面にあるか | 方向変更 or 相手側クリア確認 |
| 3 | バーリング穴から折り曲げ線・他穴までの距離 | フランジ高さ+板厚以上の余裕があるか | 配置変更 or 曲げ順変更 |
| 4 | SUS304・A5052の加工可否をメーカー確認したか | M3〜M5・板厚条件が適合しているか | 事前にメーカーへ問合せ |
| 5 | A5052に頻繁に脱着する設計になっていないか | 脱着頻度の確認 | カレイナット・ヘリサートに変更 |
| 6 | バーリング高さ(H)を固定寸法で指示していないか | 括弧寸法 or 記載省略 | 参考値( )に変更 |
| 7 | バーリング近傍に他穴・スリット等の開口部がないか | 中心間距離 ≥ (φA + 穴径) × 1.5 | 穴位置を離す or 形状変更 |
7. バーリング vs カシメナット vs 溶接ナット ─ 工法選択の判断基準
「バーリングにするか、カレイナット(圧入)にするか、溶接ナットにするか」
これはコスト・品質・メンテナンス性に直結する重要な判断です。
他の記事ではあまり触れられていないこの3択比較を、実務目線でまとめます。
| 比較項目 | バーリングタップ | カレイナット(圧入) | 溶接ナット |
|---|---|---|---|
| コスト | ◎ 最安(部品追加なし) | △ ナット代が発生 | △ 溶接工賃が発生 |
| 脱着耐久性 | △ 繰返しでねじ山摩耗 | ○ ナット自体が高耐久 | ◎ 最も強固 |
| アルミ適性 | △ 山つぶれリスク | ◎ アルミとの相性◎ | △ 溶接性に難 |
| 寸法精度 | ○ プレス精度範囲内 | ○ 圧入精度で安定 | △ 溶接歪みリスク |
| リードタイム | ◎ プレスで一工程完了 | ○ 比較的短い | △ 溶接工程が追加 |
| 推奨用途 | 薄板・量産・コスト優先 | アルミ・頻脱着・強度必要 | 重荷重・恒久固定 |
選択フロー(実務の判断基準)
STEP1: 板厚とねじサイズで3山確保できる? → YES → 直タップでOK
STEP2: できない → 材質はアルミ(A5052)か? → YES → カレイナット検討
STEP3: アルミ以外 → 頻繁に脱着する箇所か? → YES → カレイナット or 溶接ナット
STEP4: 脱着少ない→バーリングタップ(コスト最優先)
8. 設計でやってしまいがち!バーリングNGパターン集
現役エンジニアとして実際に経験した・検図で発見したNG例です。発注前に必ず確認しましょう。
| NGパターン | なぜNGか・対策 | |
| ❌ | バーリング高さを固定値で指定 | 加工メーカーが下穴径・板厚条件で高さが決まるため、固定値を入れると「加工不可」で返ってくる。→ 括弧寸法(参考)とするか高さ記載省略。 |
| ❌ | A5052のt1.0にM3BRタップ指示 | アルミは強度が低く、M3はフランジが非常に薄くなり割れリスクあり。M3はアルミのBRには適さない。→ カレイナット採用を検討。 |
| ❌ | バーリング突き出し方向の指示なし | 方向が不明だとメーカーが加工できず問合せが発生。特に組立方向に突き出ると相手部品と干渉する。→ 必ず「表側」または「裏側」を明記。 |
| ❌ | SUS304でバーリング後にバリ取り寸法を厳しく指定 | SUSはバーリング先端が若干粗くなる。バリ取り必須の場合はコスト上昇要因。→ エッジ要求が厳しい場合は工法変更(カシメ等)を検討。 |
| ❌ | 曲げ線からバーリングが近すぎる | 曲げ加工でバーリング部が引っ張られ変形する。曲げ最小距離≥ (フランジ高さ + 板厚 × 2) を守ること。 |
9. 板金設計力をさらに上げる!現役エンジニアが選ぶ参考書籍
板金設計の知識を体系的に身につけるには書籍が近道です。現場で実際に役立った書籍をご紹介します。
書籍1 板金加工の基礎知識(日刊工業新聞社)
板金の曲げ·バーリング·タップ等の基本加工をイラスト豊富に解説。設計部門への入門書として最適。図面指示の書き方も解説されており、本記事の内容をさらに深く学ぶことができます。
書籍2 機械設計製図便覧(理工学社)
JIS準拠の図面表記·はめあい·ねじ規格が一冊にまとまった設計者必携の辞典。板金の図面指示を調べるときに手元に置いておきたい一冊です。
最後に
板金バーリング加工の設計基準を、材質·板厚·図面指示·工法選択まで徹底解説しました。
本記事によって機械設計の参考として活用して頂けたら幸いです。
ここまでご覧いただきありがとうございました。
なお、AKLABO.学習帳では、機械設計のご相談も承っております。
以下のリンクより、お気軽にご相談ください。


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